|
|
Dyna-King社は1981年創業のフライタイイング・バイスの名門です。フルロータリー・モデルのバラクーダ・シリーズ、今日でも人気のあるProfessional,
Supremeなど数々の名作を世界中に送り込んでいます。私のメインバイスはバラクーダですが、何故か今のモデルとは形が少し違います。シリアルは100番台で業界人の友人に見せても「これ何?」というようなバラクーダとは微妙に違うデザインです。プロトモデルなのか、初期モデルなのか、今度工場長に聞いてみようと思います。
さて、世の中にはタイイング・バイスを製造する会社が数多く存在します。有名どころではRegal, Renzetti, Thompson, Griffin,
HMHあたりでしょうか?更にAbel, Anvil, Dan Vise, Stone Fly, MP Swiss Vise, A.K. Best,
Nor-Vise, Sun Riseなど多くのメーカーが続きます。TMC、マリエットなど国産バイスもいくつもあります。
私は初代のインド製品からいくつか所有してきましたし、多くの友人、知人、ショップなどで数々のバイスを手にとって来ました。不思議なことに友人の殆どが現在使っているのはダイナキングです。
ダイナキングのバイスは沢山のモデルがありますが、フックを固定するという肝心の性能はどのモデルを選んでも同じです。ではなぜモデルがたくさんあるのかというと、その固定部までのシャフトの長さ、仕組み、回転機能などが様々に違うからです。フックを固定するという機能は基本的に同じだと思ってください。ただし、車と同じことで同じメーカーのスタッドレスタイヤを履いたからといって軽自動車と大型SUV、貨物トラックとでは走行性能、性質は大きく変わってきます。ジョーは車で言うタイヤと一緒で、フックとの接地面はジョーのみです。フェラーリでも軽自動車でも路面との接地面は車体本体ではなく、タイヤです。
海外のフライタイイングのインターネット・フォーラムを見ると、大抵「Dyna-king vs Renzetti」という議論があります。おそらく世界のバイス界の両雄なのでしょう。残念なのか幸運なのか、私にレンゼッティー社とのめぐり合わせはなかったため、ダイナキングへの愛着が深まり、過去も今後もダイナキングがあれば、それ以上何を求めるのだろうと言ったところです。主にアメリカ、ヨーロッパの議論(英語圏)を読みますと、ダイナキングの性能とレンゼッティーの性能は同じだが、レンゼッティーの方がやや価格が高いという結論に落ち着くようです。高価なレンゼッティーは所有欲もくすぐるのでしょう。リーガル社は今でも北米で人気のあるブランドですが、日本では取り扱いが少ないためかほぼ人気が消えてしまっていますし、ここ10年ほどで始めた方は見たことがないかも知れません。海外の友人が使っている割合は意外に高いです。
フライタイイングに熱を入れている方には、予算が許す限り一流のバイスを買っていただきたいと思っています。レンゼッティーなどトップクラスの製品は一生使えますし、ジョーや一部のパーツが磨耗したら替えるだけで孫の代まで働き続けるはずです。エンジンオイルを替える頻度でのメンテナンスなど要りません。安価なバイスは結局長持ちしませんし、愛着も生まれません。確かにフライを巻いてみようと決心したばかりの方に方に2-5万円の万力は高いです。辞めてしまうかもしれません。ただ本気でフライ巻きを一生やるのでしたら安いものです。
さて、ダイナキングの性能について書くことにします。すべてのバイスのフック固定部は同じ構造です。ネジ式ではなく、レバーを締めることによって固定されます。多くのメーカーのようにレバーを強く締めるほどにジョーが閉まっていくのではなく、レバーは一定の位置までしか下がらず(上がらず)、カクっと止まります。この感覚がダイナキングの特徴であって多くのオーナーが愛するフィーリングです。正しく固定されたフックは動きません。かつての広告に使用していた有名なステンレスフックをグニャッと曲げた写真のごとくとても頑丈です。海外のフォーラムで「レンゼッティ、ダイナキング両方使っているがレンゼッティではあれは出来ないな・・」という投稿を読んだことがあります。それだけダイナキングの頑丈さは特別なのでしょう。
ジョーについて
締め付けるレバーの仕組みだけでなく、車で言うタイヤにあたるジョーの性能も特筆すべきレベルです。スタンダードジョーには2本の溝が切られています。この溝のデザインが秀逸で、どんなサイズのどんな形のフックでさえどこかで綺麗に留まります。#24ぐらいまではスタンダードジョーで問題ないと思いますので、当店ではミッジジョーは小型フライオンリーの方以外にはお勧めしません。溝の切っていないミッジジョーはウェットフックなどには適しておらず、永いこと滑らせるとジョーが磨耗するだけです。勿論大型ソルトウォーターフックなどもってのほかです。ミッジ以外絶対巻きませんという方以外、スタンダードジョーを使われるのが自然です。実際私はミッジも多く巻きますが、ミッジジョーを装着したことがありません。ダイナキングのミッジジョーはそれほど細くありません。スタンダードより若干細い程度で、スタンダードでミッジフライは巻けます。ミッジ専門家以外、ミッジジョーは基本必要ないと思っていただいても構いません。
維持費
一生もののバイスを前提に維持費を考えてみます。やはりいつかは替えなくてはいけないのは、車で言うタイヤにあたるジョーです。フックとの接点ですので、路面と当たるタイヤの劣化と同じくジョーの寿命が何時かは来ます。他社ではヘッドごと替えなくてはいけないものもあり、プリンタのインクだけでなくてヘッドまで一緒に買わなくてはいけないのは非常にお金のかかる話です。ジョー交換に数倍支払うのはどなただって困るはずです。私のバラクーダは1999年から使っていますが、ジョーが10年にして破損しました。あとはネジが多少ゆるくなった程度で他に致命的な疲れが来ているとは思えません。巻いている数も数十万本と思われます。ロータリー部のベアリングに油をさしたことは一度もありませんが、キーキーいったことはありません。なんという頑丈、信頼性なのでしょう。ですからダイナキングに投資をしていただければ、孫の代までご使用いただけると思います。ジョーやパーツの流通量も多いですので、半永久使えると思います。非常に高価で流通量の少ない一部のバイスはメーカーが生産を中止、もしくは廃業した場合、パーツ切れを起こす可能性があります。フライ業界ではよくリールメーカーで起こる現象で、高級製品ほど消費者としてはいい迷惑です。いくつか道楽で作ったのではないかという生産量の少ないバイスがありますが、5万円を超えるバイスの修理ができないとなるとこれは惨事です。ですからある程度歴史のあるメーカー以外高価な製品を購入するのは少し怖いです。メーカーを問わずバイスを購入するときは交換パーツの入手についてお考え下さい。電子機器ではありませんので、原始的にパーツ交換すれば半永久的に使えます。
しばしば錆びたダイナキングを見ます。私のバラクーダの方がよほど使っていますが、錆びは見当たりません。「使う鍵は錆びない」という言葉の通り、使ったまま放置しておくとジョーなどにサビが出てくるようです。たまには取り出して磨いてください。ジョーの部分に軽くルブリケート(ダイナキング社ではマリーン用のオイルを薦めています)を塗ると非常に滑らかな動きが戻ってきます。
では、たくさんのモデルからどの一個を選べばいいのでしょうか?店主の独断で書きます。
2019年 加筆
まず限られた予算で価格が決め手であれば、Princeをお勧めします。軽量、シンプル、無駄なところがありません。割と軽量のため遠征に持っていけます。ヘッドの角度も変わりませんしフルロータリーではありませんが、ヘッドは回転します。フルロータリーは不要でフルサイズのモデルをお探しでしたらProfessionalかSupremeです。どちらも殆ど一緒ですが、Supremeは無段階でジョーの角度が変更できます。
フルロータリー・バイス
英語ではTrue Rotaryという場合も多いようです。この機能を世に広め熟成させたのはレンゼッティー社なんだと思います。その後ダイナキングも含め各社がモデルを発売し、この20年ちょっとはフルロータリー・バイスの時代です。私はバラクーダを永いこと使っているため、フルロータリー機能のない他のバイスを使うとイライラします。フライの裏側を見ようとジョーを回転させるとあらぬ方向を向いてしまいます。ジャングルコックをつけたり、ウイングをカットしたり、ティンセルを巻いたり、ロータリー機能は常に使いますので、これがないと非常に不便です。
しかし一般的にフルロータリー・バイスは高いです。ある程度お金を惜しまない場合はIndexer, Barracudaをお勧めします。Barracudaは永いことベストセラーになっています。
ご予算に限りがある場合はTrekkerをお勧めします。材料を安くして小型に仕上げバラクーダのパフォーマンスを手軽に届けることに成功した比較的新しい製品です。勿論フルサイズのバラクーダやその派生モデルに比べると質感が落ちますが、価格も一気に落ちます。「安っぽい」という意見も聞きますが、多少の同価格帯のバイスに比べると高級感があると思います。
ご予算が選択のファクターにない幸運なお客様はUltimate IndexerやExcaliburあたりをお勧めします。
フルサイズのBarracudaのシリーズやProfessionalなどは重いですので、遠征にはあまり向きません。車での旅の場合は問題ないですが、飛行機の荷物リミットや体力を考えますと、あまり持ち歩く製品ではありません。バックパッキングではまず考えられない重量です。
ペデスタルとクランプについて
クランプよりもペデスタルの方が圧倒的に売れます。私は工房では基本的にペデスタルしか使いません(一部例外あり。後述)。これは個々人のタイイング時の好みの姿勢によると思いますが、そもそも習慣から来るのかも知れません。私はクランプもペデスタルもいくつか使ってきましたが、ペデスタルに定着してからはクランプは使いづらいです。しかしクランプに慣れてしまえばペデスタルよりもいい点が見つかるのかも知れません。
まず目の角度ですが、クランプの場合、割とイスを奥まで押して上から見下ろす格好で巻くことが多くなります。理由はマテリアルを置くテーブルがバイスよりも奥に行くからであって、あまり手前の遠いところにイスを置いて巻くとマテリアルが取りづらくなります。従ってペデスタルに比べると顔とジョーの距離は縮まり目線は下側になります。これは大した問題ではないのですが、私の場合フライの製作量が果てしなく多いため、事故が起きます。よくあるのは手を滑らせてフックを落すことです。ペデスタルの場合は大抵机のどこかで見つかりますが、クランプの場合机に張り出している為、床に落とす確率が高くなります。これは困ります。
長時間フライを巻くプロ、セミプロ、それらに顔負けのアマチュアの方は疲労が問題になってきます。私の場合肘を机に置かないと疲れます。クランプの場合肘が空中にあるため、私は疲れてしまいます。ところがペデスタルを長時間使い疲れた時に、クランプに変えて気分転換をすると意外に効く事もあります。アメリカの有名なプロタイヤーの方を見ると結構クランプを愛用しているパターンがあります。なので、完全な好みなのかなとも思いますし、私のレベルが低いのかも知れません。
私の場合の話を続けます。角度が下になれば背景が気になります。私はプレート、単色の背景がなければフライを巻くことが出来ません。背景がゴチャゴチャしていると、目が強烈に疲れます。ですので極端に言うと真上から見下ろして巻くと刈り込んだゴミなどが目線に入り目を疲労させます。これはどうしても避けたいため、バックには気を遣います。出来る限り背の高いバイスが好きで、机からジョーの先端の高さが20cmぐらいの状態が私にはベストです。たまに低いバイスを遣うと目が疲れます。ついでも首も疲れます。
タイイングの場合灯りも重要です。私は三菱電機製とPanasonic製のオフィス用の横長のものを愛用しています。家電店で割と上位にあったモデルで、歯医者さんが使うようなアームが付いていて気に入っています。かつて少し安いメーカーのライトを使っていたのですが、光量が足りず目が痛くなりました。なるべくジョー先端とバックのプレートに光を一様に当てる様にしています。ジョーだけをスポットライト状に当てて、バックが奥にあり暗くなると目が疲れます。クランプの場合手前にライトを持ってこないとフライの表側が見えませんから、随分長いアームのライトが必要です。タイイング・スペース上の各部の明るさが違うと目を疲れさせ、視力低下を招くのではないかと思っています。カメラでいえば明るいところ、暗いところで絞りを開け閉めしなくては行けません。人間の瞳孔も明るさによって開閉し、この酷使は眼球に良くないはずです。
私のランプはクランプ式で机の奥から伸びてきます。ペデスタル式は邪魔ですので買いませんでした。この事実はバイスにも当てはまるのかなとも思います。机にゆとりがない場合はクランプの方が便利という意味です。うちの工房は十分なサイズの机がそれ用に備えてあるので問題ないですが、化粧台程度の机ですとクランプは有利なのでしょう。
私の仕事場の机は大型で、キーボードが天板の下からスライドして出てきます。これは非常に便利でタイイング道具一式を一切片付けることなく、キーボードを操作して、モニターも見ることができます。これがクランプだと不可能になります。目の前に固定したクランプはキーボードのスライドを邪魔しますので、そのつど取り外さなくてはいけません。これは億劫です。
こんな理由から私個人はペデスタルを好みますが、環境が許し、習慣化すればクランプでも問題ないと思います。ちなみにコンピューターとタイイングデスクを一緒にする時はキーボードのカバー等に気を遣ってください。ダビング材などが入り込んで不衛生になります。さらにコンピューターのファンにダビング材など細かい埃が溜まりますので、定期的に掃除しないと故障の原因になります。私のマシーンはファンに溜まった埃でCPU熱暴走を起こしたことがあります。電源タップ等もまめに清掃しないと漏電など考えられます。特にニンフやゾンカーなど空気中に散りやすいラビット系のフライを大量に巻くと埃が舞います。
旅先ではクランプは重宝します。キャンプなどでは平らな机が確保できずペデスタルがぐらつくことは多く、クランプを持っていったりもします。結局好みの問題なんでしょうが、クランプ派の方のご意見をお聞かせ下さい。こちらに追記するかもしれません。
アクセサリー
ダイナキングの魅力はアクセサリーの充実度にもあります。ペデスタル、クランプどちらのモデルを買っても後にアクセサリーを買い足すことで自在に拡張することができます。エクステンションなどを装着すると只者ではない見栄えになり、フライ巻きが楽しくなることでしょう。ギャローツール、プロファイル・プレート、トリムバッグなどを沢山つけるとガンダムのように化けていきます。
取り扱いモデル、在庫
バイスという大型商品はハックル、ディアヘアやスレッドのようにスピーディーに売れるものではありません。すべてのラインナップを揃えても中々捌けていきません。これは資金繰りに影響するため、当店の「仕入れたらすぐに確実に売る」という方針に反します。当店が殆どの製品で低価格を実現できている理由はそこにあります。売れないのが分かっているラインナップをそろえて「何でもあるお店」を目指すと、それぞれの商品の、たとえ売れ筋であっても販売価格が高くなります。よって、売れ筋商品以外はすべてお取り寄せにして、価格を出来る限り下げて提供しています。毎月荷物が来るような性質の商品ではありませんので、数ヶ月はお待たせいたしますが、価格、サービスでご満足いただけると思います。アクセサリーなど同時に複数ご予約の場合お値引きできる可能性もありますので、交渉してください。またある程度の金額のお買い物の場合、専用に荷物を作って早期に発注できる場合もあります。なお、常備しないダイナキング製品のお取り寄せには発注前に半額のご予約金を頂戴し、お客様都合のキャンセルは受けられませんのでご注意下さい。
生涯保証
ダイナキングのバイスには正規に登録されたオリジナル・オーナーに限り生涯保証があり、自然に故障、磨耗したパーツの無償修理が受けられます。つまり30年所有して、どこかが壊れるたびに何度でも直してくれるのです。ジョーの保証は2年間です。ただし日本からの修理は往復送料が必要です。詳しくはWarrantyのページをお読みください。
有償修理
当店以外で買われた製品でも故障時、交換パーツのお取り寄せは可能です。壊れたと諦めずお問い合わせ下さい。一番安価で済むパーツ交換を模索します。アメリカへの往復など無駄な送料はかかりません。過去、沢山のお問い合わせをいただき、パーツの取り寄せをしてきました。「買ったお店で取り寄せしてくれないから助かりました」「諦めていました」というような感謝のお言葉を沢山いただきました。お使いのダイナキングに不具合がありましたら、お写真と一緒に詳しい症状をお知らせください。ダイナキング社に伝えて、一番安価な修理方法を検討します。カリフォルニアにバイスを送ったこともありますが、大抵はパーツの取り寄せで解決します。やはり一番多いのが、フォーシング・コーン(ギザギザのネジ)の不具合です。ジョーが閉じた状態で、ネジを回してから具合が悪くなったという問題を良く聞きます。新品コーンを入れたら一発で治ったということがほとんどですが、一度だけ送られてきたコーンが入らないという不思議な事象に遭遇しました。結局摺合せが悪かったようで、2個目を送ってもらい解決しました。
日本のお店では細かいパーツの対応が出来ないところも多いようですが、当店にご連絡いただければ、出来る限り対応します。過去、故障が解決できなかったことは一度もありません。修理パーツお取り寄せは全額前金をお振込みいただいてからの発注となります。キャンセルされた時に売れないからです。
タッチアップ
バイスのあちこちが弱ってきた場合、有償でタッチアップが受けられます。ジョーの溝調整、カム・ハンドルの溝切り、全般のタッチアップなど、15-25ドルです。これには送料もかかりますが、古いバイスを生き返らせてはいかがでしょうか?
特注品
とあるお客様より昔存在したバイスが欲しいということで、特注の依頼をされたことがあります。結局部品がないため、廃盤モデルは復刻できませんでしたが、それでも他の現行バイスにパーツを取り付けた特注は可能と言うことになりました。どんな要望でも割とフレンドリーに検討してくれるメーカーなので、お問い合わせください。
ダイナキングに関するご質問、オーダー、修理等全業務は国内外いなかる代理店等通さずにダイナキング社と直接コンタクトを取って対応いたします。スピーディー、確実な対応のダイナキング・正規ディーラーMaXtream Flyにお気軽にどうぞ。
リーガルやアンビルにご興味があってもダイナキングをお勧めしてしまいます。
店主 荒木
|
|
|
|